思っていても伝えられないこと

帰り道、いつもとは違う、
見知らぬ道を選んで進むと、
見知らぬラーメン屋さんがありました。

魚介系のおいしそうな香りに誘われて、
するするとお店に引き込まれる。
ラーメン屋さんにしては、わりと広い店内ですが、
時間帯もあってか、お客さんは僕ひとり。

食券を買うと、ひとりで切り盛りしている店長さんが、
わざわざこちらに歩み寄ってきてくれて、
いらっしゃいませ、と受け取ってくれた。

お味の方はというと、
魚介系だけど、あっさりしすぎない感じで、
とても僕好みでした。

「ごちそうさま」のことばですら、
ちょっとはずかしくて、
小さな声になってしまう僕ですが、
今日のラーメンはとても美味しかったし、
それなのにお客が少ないことが、寂しくもあり、
自然と「とてもおいしかったです」、
ということばが出てきた。

それまで、やや曇りがちだった店長さんの表情は、
一瞬でぱっと、明るくなって、満面の笑みで、
「ありがとうございました」と伝えてくれた。
僕も笑顔で再びお辞儀をして、お店を出る。

帰り道、自転車に乗っているときも、
店長さんとの、ほんの一瞬の、
あたたかい会話が残り続けて、
おいしいラーメンの味が、さらにおいしく広がってきた。

思っていても伝えられないことって、たくさんあります。

でも今回は、
「おいしかったです」のひとことが伝えられて、
あー、よかったなぁ、と感じました。