暗闇の怖さのなかにある安堵感

23時過ぎ、旅のはじまり、夜道を駅まで歩いていく。
いつもは自転車だけど、一週間ほど戻ってこないので、
めずらしい、駅までの徒歩時間。

町の灯りのひとつひとつに敏感になる。
ここのはこんな色だったんだ、こんな配置だったんだ。
虫の鳴き声も、いつも以上に繊細に響いてくる。
まるで、僕の耳もとでささやいているよう。
足下に、突然ヤモリが登場。その俊敏さを目で追いかける。

旅に出るだいぶ前から、少し緊張していて、
でも、それを上回る、ワクワク感があって。
いつもより心拍数が上がっている感じ、心地よい具合に。
だから、普段よりも、いろんなことが敏感に響いてくるのでしょう。

夜行列車は、新潟へと向かう。

僕のとなりの席には、誰もいなくて、少し落ち着かない。
二駅遅れて、おばさんが乗ってきた。
ちょっとがっかりなような?、でも実は、ほっとしたような?。

車窓からは、ほとんどひとかげのない町並みが広がる。
そして、建物の灯りが、いつもより際立って浮かび上がる。
暖色系の灯りのもとには、家庭の団らんがあって、
蛍光灯の灯りのもとには、まだがんばって働いている人たちが。
僕は車窓に額を近づけて、ぼんやりとしている。
いろんな人が同じ時を、いろんなスタイルで過ごしている。
あ、今、家の灯りがひとつ消えた。

お腹が空いてきて、持ってきていたトウモロコシを食べる。
旅っぽくていいなぁ、とリュックに入れてきたのです。
でも、夜行列車で、寝ている人もいるし、
ちょっと迷惑かな、なんて思っていると、
となりのおばさんが、なんだか、ごそごそと。
ん、なんだろう、と思っていたら、
そのおばさんは、なんとカレーパン。
安心してトウモロコシを食べる。

夜行列車が、東京をだいぶ離れてからも、
まだまだ僕は、旅のはじまりの心地よい振動をたのしんでいる。
普段の生活の中では感じることのない、
いろんなイメージやアイディアが浮かんでくるので、
頭とこころは動き続けて、眠る気にもならず、
本を読む気にもならず、音楽を聴く気にもならず。

今までも、旅行中は、同じような気持ちになることが多い。
旅のなかで思い浮かぶイメージやアイディアの豊富さ。
日常に戻ると、そう大したことではなかったな、
というものも沢山あるけれど、それらを切り捨てても、
普段の生活と比べたら、ありあまるほどの数の発見があるものです。

毎日の生活でも、自動的に、こういう心境に持っていけたら、
もっとクリエイティブになれるかな、と思うけど、
そういうことでもないんだよな、とも感じたり。

気づくと、夜行列車は、灯りのほとんどない、
森のなかを走っていた。
車内の人はほとんど眠りについている。
窓の外はほんとうに、まっくら。
都会ではなかなか感じることのできない暗闇です。
僕は、ちょっとした怖さを感じけれど、
その気持ちを経過したあとに、なんともいえない
安堵感がこころのなかに広がってきた。

ときどき、ひとりになるということ。
それは、きっと、人が嫌だからということではない。
人としっかりと向き合いたいからこそ、
ひとりになる時間も欲しくなるのだろう。


明日は、朝6時発の秋田行きの各駅停車に乗る予定。
日本海に沿って、海岸線を走る、その景色がたのしみです。