愛あることば

「お客さーん、着きましたよー」
フェリーの係員の方、直々に起こされる。
時計を見ると、朝6:20。
そして、回りを見ると、
僕以外のお客さんは、誰もいなくなっている。

みんなは船内アナウンスで目覚めて、下船したようだけど、
僕は、それまでの旅の疲れもあったのか、ぐっすりと眠っていたようで、
びっくりして、リュック片手に函館港に降りました。

薄曇りの天気のなか、最寄りの駅まで20分ほど歩く。

また今日も、各駅停車に揺られること三時間。
電車は、長万部駅に到着。
乗り継ぎまでの2時間、のどかな街並みをゆっくりお散歩。
名物のかにめしを食べる。
器いっぱいに敷き詰められたかには、さっぱりとしていて、
でも、口のなかには芳醇な味わいが広がり、美味。

去年の夏、ここ長万部駅の商店街を歩いた時に見つけた、小さな本屋さん。
まわりは、ほとんどシャッターが降りたお店ばかりだったので、
まだ、だいじょうぶかな、と少し不安に歩いていると、
あったあった、以前と変わらず、ひっそりとオープンしていた。
そこで、しばし、時間を過ごす。
店主さん手書きのポスターには、

「最新のネットワークにより、お探しのどんな本でも
 最短5〜7日で入荷いたします。」

と書かれていました。

パソコンで買い物をする人たちにとっては、
ちょっとびっくりなスピードかもしれないけれど、
ほんの数年前までは、これくらいが当たり前だったよな、と思う。
それで、特に不便を感じたことも、
その当時はほとんどなかっただろうし、
情報化の進歩がめまぐるしい、現代の時間の流れの方が、
ちょっとおかしいのでは、なんて思ったり。

でも、それはきっと、ここ数日、のーんびりと、
各駅停車の旅を続けているから、
そして、こんなにゆったりのどかな街を歩いているから、
そう感じたのだと思うけれど。

*

往路最後の、各駅停車の旅となる、
室蘭本線に乗り込む。かわいらしい一両編成。
ボックス席になっている電車で、
となりのボックス席では、大学生くらいの、
僕と同じような、電車旅行中であろう格好の青年と、
70歳過ぎの、地元感漂うおじいさん(北海道に詳しそう)とが、
向かいあって座っている。
初対面の2人は、初め、微妙な距離感でしたが、
ある駅で、20分ほどの停車時間があったタイミングから、
一気に会話が弾みだし、その雰囲気がとても楽しそうで、
おまけに声も大きいものだから、ついつい、
僕の耳にも入ってきてしまいました。

その青年は、時刻表片手に、長いこと旅を続けているようで、
これまでの旅のいろんなことを、おじいさんに丁寧に話している。
今夜は、札幌まで行き、ネットカフェに泊まるという会話の中で、
その青年は、ネットカフェというものを、
おじいさんが分からないかもしれないということを踏まえながら、
ていねいにやさしく、細かな説明をしている。
これこれこういうしくみで、シャワーもあって、
2000円代で泊まれるから、学生の旅には便利で、などなど。

おじいさんは、その話を興味深く、ていねいに聞きながら、
今度は、その青年が北海道にそれほど
詳しくないであろうことを踏まえて、
おすすめの路線や、景色の良い場所、
北海道の、昔と今の変化してきた部分などを、
ゆっくり、やさしく、説明している。

そんな状況が、とてもいいなぁ、と僕は感じていました。
そこには、愛あることばが存在しているなぁと。

世代の違う人同士は、どうしてもその中で、
話題を完結しようとして、あまりによろしくない状況では、
「最近の若い人たちは〜」という台詞と、
「古い人には分かんないよなぁ〜」という台詞、
(それらに出会うたびに、僕は、なんだかとっても嫌だなぁ、
 という気持ちになるのですが、)
そんな台詞で、まとめようとしてしまいます。

相手の存在を大切に思い、立場を想像しながら、
その上で、自分の考えていることを、
いかに分かりやすく説明することができるか。
そこで、あれこれ工夫したり、ときには苦しんだり、
そのときに生まれてくる気持ちが、愛というものなのでは。

車窓に広がる、静穏な内浦湾を眺めながら、
愛あることばについてあれこれと思いを巡らしていると、
今回の旅のゴール地点、伊達紋別駅に到着。

これから5日ほど、北海道で、時間を過ごします。